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「ごちそうさま」
偉央の声に、結葉は「お粗末様でした」と答えて席を立って。
「片付けますね」
そう声を掛けてベッドの方へ向けていたサイドテーブルを、トレイを載せたままキャスターのロックを解除してベッドを避けるように動かした。
「偉央さん、今度こそ横になって身体を休めていてください。私、食器を洗ってきますので」
ベッド横の定位置にサイドテーブルを固定すると、自分が使っていた湯呑みをトレイに一緒に載せて、偉央の方を振り返る。
「――っ!」
それと同時、いきなり強く手を引かれて、結葉は偉央の腕の中に抱きしめられていた。
食事の間中、偉央が纏う穏やかな空気感に完全に油断していた結葉は、突然のことに何が起こったのか理解出来なくて。
悲鳴すら上げられないまま偉央に捕まえられてしまう。
「――あ、あのっ、偉央、さっ」
偉央の腕の中に閉じ込められた事で、嫌と言うほど嗅ぎ慣れた偉央の香りが、結葉の鼻腔に流れ込んできた。
〝偉央の香り〟と言っても、偉央は仕事柄香水などをつけるタイプではない。
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