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だから偉央から漂ってくるのは、いつも彼が身に纏っている服に使われた洗剤や、ボディソープの香りに、彼自身の体臭がほんの少し混ざった感じの仄かなものだ。
同じ石鹸を使って身体を洗っていた時ですら、自分とは違って感じられた偉央のにおいだったけれど、こんな風に弱っている時でさえも、彼は汗臭かったりしなかった。
思えば、偉央は仕事から帰ると真っ先にシャワーで身体を清める男だった。
家の中に病院からのアレコレを持ち込みたくないからだよと説明されたことがあるけれど、そのせいで必然的というべきか。
家で偉央を待つ結葉には、夫=風呂上がりの香りが定着してしまっていて。
不意打ちのように偉央に抱きしめられた結葉は、その香りとの相乗効果で、偉央にされた数々のことを思い出して恐怖心がブワリと再燃する。
ギュッと身体を固くして、震える声で「偉央さ、お願っ……離して……」と懇願してみたけれど、聞こえているのかいないのか。
偉央は一向に腕を緩めてくれないのだ。
しかも、何度呼びかけても偉央が何も言ってくれないから、怖くて堪らない結葉だ。
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