34.出て来ない結葉

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「……()()、さん……」  震える手でグッと偉央(いお)の身体を自分から引き剥がそうとしてみた結葉(ゆいは)だったけれど、偉央(いお)の力は思いのほか強くてびくともしない。 「お願い、離し、て……」  さっきまでの凪いだ気持ちが嘘みたいに、結葉(ゆいは)の心は千々に乱れて嵐の中に放り込まれたみたいな錯覚を覚えている。  ややして――。 「今まではずっと要らないって言い続けてきたけど……」  結葉(ゆいは)が必死にもがくのを封じたまま、偉央(いお)譫言(うわごと)のようにつぶやいた。  耳元近くで発せられた、あまり抑揚(よくよう)の感じられない偉央(いお)の低音ボイスに、結葉(ゆいは)の恐れは否が応でも高まってしまう。  それは、結葉(ゆいは)を散々苦しめてきた、〝怖い時〟の偉央(いお)の声そのものだったから。  偉央(いお)の腕の中、小動物のように小さくなって震える結葉(ゆいは)に、偉央(いお)が静かに語りかける。 「もしも……。もしも僕が子供を作ってもいいって言ったら……結葉(ゆいは)の憂いはひとつ消えるよね?」 「こ、ども……?」  偉央(いお)の発した言葉の意味が分からなくて、結葉(ゆいは)は彼のセリフを無意識につぶやいて。  それと同時、くるりと向きを変えた偉央(いお)にベッドに押し倒される。
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