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「……偉、央、さん……」
震える手でグッと偉央の身体を自分から引き剥がそうとしてみた結葉だったけれど、偉央の力は思いのほか強くてびくともしない。
「お願い、離し、て……」
さっきまでの凪いだ気持ちが嘘みたいに、結葉の心は千々に乱れて嵐の中に放り込まれたみたいな錯覚を覚えている。
ややして――。
「今まではずっと要らないって言い続けてきたけど……」
結葉が必死にもがくのを封じたまま、偉央が譫言のようにつぶやいた。
耳元近くで発せられた、あまり抑揚の感じられない偉央の低音ボイスに、結葉の恐れは否が応でも高まってしまう。
それは、結葉を散々苦しめてきた、〝怖い時〟の偉央の声そのものだったから。
偉央の腕の中、小動物のように小さくなって震える結葉に、偉央が静かに語りかける。
「もしも……。もしも僕が子供を作ってもいいって言ったら……結葉の憂いはひとつ消えるよね?」
「こ、ども……?」
偉央の発した言葉の意味が分からなくて、結葉は彼のセリフを無意識につぶやいて。
それと同時、くるりと向きを変えた偉央にベッドに押し倒される。
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