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偉央に押さえ付けられて、絶望的な気持ちでいた結葉の耳に、チャイムの音が聴こえて来た。
訪問者は扉が閉まり切っていないことに気付いてくれるだろうか。
その音を聞いた瞬間そんなことを期待してしまった結葉だ。
もしもに備えて玄関扉に靴べらを挟んでオートロックが作動しないようにしていたのは、いざという時ロックを外す手間なく逃げられるように、という意味ももちろんあった。
けれど、それよりも心の片隅。
もしもの時には想ちゃんが助けに来てくれるかも知れない、と期待していたことを否定しきれない結葉だ。
(ここに来る事、何も言わなかったくせに勝手過ぎるよね。ごめんね、想ちゃん)
でも、今は――。
どうか今だけは……。チャイムを鳴らしたのが想ちゃんだったらいいのに、と有り得ないことを願う自分を許して欲しい。
不安で押しつぶされそうな気持ちを都合のいい思い込みで鼓舞すると、結葉はギュッと奥歯を噛み締めた。
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