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あの忌々しい声の主は、姿を見なくても分かる。
結葉の幼馴染みの山波想だ。
結葉の名を呼び捨てにしていい男は夫である自分だけだと思うのに、どうしてあの男はたかだか幼馴染みの分際で、偉央の愛しい妻の名を馴れ馴れしく呼び捨てにするのだろうか。
そう思うのに――。
それを一緒になって咎めるべきはずの結葉自身が、その声を聞くなりパッと目を輝かせるとか。
有り得ないではないか。
目の前にいるはずの自分からいとも容易く視線をそらして声の主を探そうとする結葉のことが、偉央は心の底から憎らしく思えてしまう。
憎らしいのに愛しくて、心の底から大好きだと思えば思うほど、腹立たしいくらいに忌まわしく呪わしい。
余りにそちらに気を取られすぎて、どうしてオートロックのはずの玄関が開けられたのかとか、そんな基礎的なことにさえ、偉央は頭が回らなかった。
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