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「――結葉」
――ねぇ結葉。お願いだからもう一度僕の方を見て?
そう思って呼びかけたのに、結葉の意識は完全に想にとらわれてしまっているらしい。
偉央の方を見ようともしないばかりか、
「想ちゃ――……っ!」
他の男の名を呼ぼうとするとか、言語道断じゃないか。
――頼むからその愛らしい唇で、僕以外の男の名前を気安く呼ばないで⁉︎
結葉が想の名を呼ぼうとした瞬間、偉央は無意識に結葉の首にグッと手をかけていた。
ほんの少し力を込めれば、きっと結葉の華奢な首なんて、簡単に捻り潰せてしまう。
「い、ぉさっ……どぉ……、して?」と偉央の名を呼んで、苦しそうに首に掛けられた手を掴んでくる結葉を見下ろして。
もうこれで終わりにしたんでいいんじゃないかと……。
愛しい結葉が自分の手を離れて誰かのものになるぐらいなら、いっそこのまま彼女を縊り殺してしまった方が、心穏やかでいられるに違いないよね?と思ってしまった偉央だ。
だって、少なくともいまこの瞬間だけは、結葉の瞳に映るのは偉央だけだったから。
偉央は、かつてはあんなに結葉を殺してしまうんじゃないかと恐れていたことも忘れて、結葉の首にかけた手にほんのわずか、躊躇いがちに力を込めた。
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