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結葉の話し声が聞こえていたのはつい今しがたの事だ。
だとすればきっと、偉央に首を絞められてから、そんなに時間は経っていないはずなのだ。
想はざわつく心の片隅で、高校時代、友人に誘われて柔道を少し齧っていた時のことをふと思い出した。
あのとき、絞め技で落とされた友人を、先生が即座に処置をして意識を取り戻させていた。
結葉のこれも、あの時の友人同様、いわゆる「落ちた」という状態ではないのだろうかと思って。
そう思うのに、あの時の教師が友人にどういう処置を施していたのかが全く思い出せないのだ。
「結葉っ! 何で目ぇ開けねぇんだよ!」
言いながら結葉の頬に触れると、ほんのり温かくて……。
目を開けないのが嘘みたいに思えた。
「結葉っ!」
友人が「落ちた」時、先生は何をしていた⁉︎
すぐにでもそれを思い出さないといけないのに、頭がまともに働かないのは何故なんだ!
焦る気持ちばかりで、すぐ目の前の結葉に何をすればいいのか分からないことが、想は堪らなく情けなかった。
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