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と、不意に想の背後から伸びてきた手が、結葉の足の下に丸めた布団を差し込んで、彼女の足を高くした。
突然手を出してきた偉央に、想が勢いよく振り返って睨みつけたら、
「脳に……血が足りてない」
偉央が疲れたようにそうつぶやいて、結葉を悲しそうな目で見下ろした。
「キミが止めてくれなかったら……僕はきっと結葉を殺してしまっていた……」
偉央が沈痛な面持ちでそうつぶやいたのと、結葉のまぶたがピクッと揺れて、ゆっくり瞳が開かれたのとがほぼ同時で。
結葉は意識を取り戻してすぐ、眉根を寄せて喉を押さえると、数回小さく咳き込んだ。
それを見て、偉央がホッとした様に吐息を落とすと、結葉の咳き込む声に紛れて聞こえないぐらいの微かな声で「有難う」とつぶやいてベッドから降りる。
瞬間、キラリと光るものがベッドサイドに落ちて。
(涙……?)
そう思った想だ。
まるでそれを裏付けるみたいにこちらを一切振り返ろうともせず、フラフラと揺れる覚束ない足取りで偉央が寝室を出ていった。
そんな偉央をどうこうしようと言う気は、今の想にはない。
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