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「あ、の……偉央さ、ん……は?」
あんな目に遭わされてもそれを聞かずにはいられないのが結葉なんだと少し腹立たしく思いながら、彼女の質問に想は小さく首を振ることしか出来ない。
さっき玄関扉が閉まる音が聞こえた気がしたからきっと。
偉央はもうこの家の中にはいないと思う。
だけど――。
自分達もここに長居は無用だから。
「帰ろうか」
静かに問いかけて、「うん」と頷いた、まだわずか、ぼんやりしている結葉を横抱きに抱き上げると、想はゆっくりと歩き出した。
もう二度と、結葉を偉央と二人きりで逢わせたりしない。
そう心に誓いながら――。
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