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「あの、想ちゃん、もう大丈夫だから降ろしてもらっても……いいかな?」
キッチンを抜けて、そのまま廊下に出ようとした想を、結葉が恐る恐ると言った具合に呼び止めて。
まだ少し涙に潤んだ瞳で懇願するように見上げてきた。
「ホントに……平気か?」
想としてはつい今し方の、グッタリした結葉の姿がどうしても頭から離れない。
手を離してしまったら、この温もりをまた奪われてしまうのではないかという恐怖が頭の片隅でわだかまって澱のように凝り固まっている。
「うん。平気……!」
なのに結葉が曇りのない目で想を見つめてコクリと頷くから……。
想はゆっくりと結葉を床に降ろした。
結葉の足が地に接したと分かっても、もしもに備えるみたいに結葉を包み込むように回した腕を離すことがなかなか出来なくて。
「想ちゃん……?」
そっと離せないままの手に触れられて、結葉に〝ホントに平気だよ?〟と言外に含まされる。
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