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結葉が出て行ってしまったことも、美春にだけはかいつまんで話していたから、彼女はすぐにその辺りを思い浮かべたらしい。
「……ひょっとして……奥様、戻っていらしたんですか?」
低められた声でポソポソと問いかけられて、偉央は小さく吐息を落とした。
「ここで話すのはさすがに憚られる……かな。第一診察室に移動して話したんでもいいだろうか?」
いつもなら誰にも話さないようなことだったけど、今日は――。
いや、今だけは……。
無性に誰かに聞いてもらいたいと思ってしまった。
最愛の結葉が、もう二度と戻ってこないことを自分の中でしっかりと整理をつけるためにも、誰かに話すことが必要に思えた偉央だ。
「もちろん、私は構いませんが……御庄先生は本当に体調、大丈夫なんですか?」
気遣うように自分を見つめてくる美春に、
「少し疲れているけれどさっき久しぶりに食事もちゃんと摂れたし、大丈夫だよ。……それに――今すごく誰かに話を聞いてもらいたい気分なんだ」
小さく吐息を落としながら言ったら、
「お話をお聞きするぐらいお安い御用です」
言って、美春がふらつく偉央の身体を再度ギュッと支えてくれた。
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