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途端ふわりとフローラルブーケの香りが漂って、偉央はトイレに置いていた手洗い用のハンドソープが、そんな匂いの製品になっていたな、と取り止めのないことを思う。
院内の備品一切の在庫を管理・補充してくれているのは美春だったから、きっとそれも彼女が選んだんだろうな、と思った。
***
第一診察室に入るなり、偉央が覚束ない足取りのくせ、片隅に置かれた椅子を移動しようとするから。
美春はそれを押し留めて「どこにお運びすれば?」と尋ねた。
みしょう動物病院の診察室は、人間の診察室とは違って、部屋の真ん中に患畜を載せる昇降式の診察台が置かれている。
基本的に獣医師も飼い主側も立ったまま患畜の診察が行なわれるので、飼い主が座れる椅子も用意されてはいるけれど、殆ど使われることはない。
大抵の飼い主は自分が連れてきた動物の様子を、診察台付近に立ったまま心配そうに眺めるからだ。
そのため、椅子自体が邪魔にならないよう部屋の片隅に追いやられていた。
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