738人が本棚に入れています
本棚に追加
偉央自身に面と向かって言ったことはないけれど、美春は偉央のことがずっと好きだったから。
(だから御庄先生が独立して開業なさるって聞いた時、ついてきたんですもの)
そんな美春だったので、偉央が見合い相手との結婚を決めたときにはすごくショックだったけれど、彼が幸せになれるならばとグッと恋心を飲み込んで祝福したのだ。
なのに――。
偉央にこんな切ない表情をさせる奥さんのことを、美春は心底憎らしく思っている。
美春は、奥さんが家を出て行ってしまったことを、以前偉央からそれとなく聞かされていた。
「実はさっきね、結葉が……妻が帰ってきてくれて、寝込んでいた僕のために手料理を振舞ってくれたんだ」
偉央は美春の質問に答える気はないのか、そう言って小さく吐息を落とすと……。
「僕は……そのまま僕のそばにいて欲しいってお願いしたんだけどね。彼女は――結葉は別に〝帰りたい場所〟があるって言って僕を拒絶して……。結葉を行かせたくなかった僕は、激情に駆られて妻の首を絞めたんだ」
その言葉を聞いた瞬間、美春の中で、時が止まった。
最初のコメントを投稿しよう!