36.終止符

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 偉央(いお)が自分のことを加屋(みょうじ)ではなく、美春(なまえ)で呼んできたのは、彼が結婚してからは初めてのことだったから。  こんな状況にもかかわらず、美春は心臓がドキドキと恋心に弾んでしまうことに困惑する。  偉央(いお)は美春が前の職場に勤め始めた時、同期として一緒に入った唯一の仲間だ。  お互い独身の頃は、プライベートでは下の名前で呼び合って、ふたりでよく飲みに行ったりしていた。  もちろん、男と女なのでそう言う関係になったことも一度や二度ではない。  だけど、恋愛関係にまでは発展しないまま、宙ぶらりんで偉央(いお)が結婚してからは、一線引くようにどちらからともなく互いに苗字で呼び合うようになっていたのだけれど。  それが、久々に崩された瞬間だった。 「……性格の……不一致が理由じゃないの?」  美春は偉央(いお)から奥さんが出て行ったと聞かされたとき、勝手にそう思い込んでいたのだけれど、違ったのだろうか。  美春の視線の先、偉央(いお)はしばし逡巡するような素振りを見せてから、それでも顔を上げて美春を見つめてくると、ハッキリとした声音で告げた。
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