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何度差し出してもそれを受け取ろうとしない偉央に、結葉が小さく吐息を落としてそう付け加えて。
結局相場にほんの少し上乗せした金額で話がついた二人だったけれど、想は二人のやり取りを聞いていて、結葉はもっと欲張ってもいいんじゃないかと言う言葉をグッと飲み込む。
あくまでも自分は以前のような間違いが起こらないよう、偉央を監視するためだけに同席しているに過ぎないのだと自分に言い聞かせて、二人の話し合いには一切口を出さなかった想だ。
それが結構ストレスだと気づかれたら、結葉はきっと気にするだろうから、その辺はおくびにも出さないよう気をつけた。
想は二人が協議離婚で離婚できないようなら調停離婚もありだと思って見守っていたのだけれど、二人はお互いに相手を思いやるばかり。
結局その辺りで話し合いが難航することはあっても、争う感じは微塵もなかった。
***
「マンションは売って財産分与の手続きをしようと思ってる」
偉央に言われて、結葉は瞳を見開いた。
マンションの購入資金は偉央が結婚前から持っていた蓄えから全て支払ったからだ。
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