36.終止符

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 わざとおどけるように言ってみせたのは、結葉(ゆいは)が「もう、(そう)ちゃんってば何バカなことを言ってるの?」と一蹴(いっしゅう)できる余地を残してやりたかったから。  それに、もしそうならなかったとしても、いま(そう)が言ったことを真に受けて自分のことを考え始めてくれたなら儲けものじゃねぇかとも思った(そう)だ。 「……(そお)ひゃ……」  頬をむぎゅっと押し潰されたままだから、マトモに(そう)の名前が呼べない結葉(ゆいは)だったけれど、それがまた(そう)には堪らなく可愛く思えてしまって困る。  (そう)は、自分も大概重症だな、と思ってしまった。  結葉(ゆいは)に、どこまでも深く深く、黒く潤んだ瞳でじっと見つめられて、(そう)は〝今日は告白への返事はもらえなくてもいいかな〟と思って。  何故ならもう少しだけ……(そう)自身、〝もしかしたら結葉(ゆいは)から色良い返事がもらえるかもしれない〟という夢を見続けていたかったから。
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