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言うが早いか、想は廊下に出て、階段下から二階に向かって声を張り上げた。
「なぁ! 俺、結葉とちょっとドライブして来っから!」
「――こんな夜にぃ〜?」
想の呼びかけに、芹がひょこっと階段の上から顔を覗かせて。
想は「デートだよ、デート!」と、悪びれもせずに答えて、芹に意味深な表情をさせた。
芹は――と言うよりこの家の家族みんなが――想と結葉が想い合っていることに、何となく勘付いていたりする。
なのに全然進展しないのは何らかの事情があるんだろうことも薄々察してくれている様で。
「とりあえず玄関、チェーンロックは掛けねぇようにしといて?」
想が言うと、「了解」と芹が答える。
「父さんと母さんは?」
「多分映画鑑賞中。そんな音がしてるから」
公宣と純子が、夜に二人で映画鑑賞に夢中になるのは珍しいことではないので、芹の言葉に想は小さく頷いた。
「ならさ、もし聞かれたら父さんたちにも言っといてくれるか?」
「OK〜♪」
芹が頭の上に両手で大きく輪を作るのを見届けると、想は彼の背後で所在なく立ち尽くしたままの結葉を振り返る。
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