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ふと見ると、ハンドルを握る手に、ギュッと力がこもっているのか、想の手首の辺りに筋が浮いて見えているのに気づいた結葉だ。
結葉は、今の質問を投げかけるのに、想自身ものすごく勇気を振り絞ってくれたんじゃないかと今更のように気付かされる。
「――想ちゃん……私……」
結葉は太ももに乗せた両の手をギュッと握り締めると、想の質問に〝好き〟と一言短く返そうとして……。
でもその途端、偉央の切ない声と顔が思い出されて言葉に詰まってしまった。
音楽もラジオも掛かっていない静かな車内。
エンジン音とエアコンの音に紛れて二人の吐息ばかりがやたらと大きく聞こえてしまう。
想はじっと前方を見つめたまま、結葉にその先を早く言えとも何とも急かして来ない。
それがまた余計に結葉の胸をギュッと締め付けてきた。
「ごめんね。私、……まだ想ちゃんに何も伝えられそうにないよ……」
泣きそうにか細い震える声でそう言ったら、想が「やっぱりそうか」と小さな声でつぶやいて。
そのままウィンカーを上げて路肩に車を停車した。
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