38.二人暮らし

2/31
前へ
/848ページ
次へ
 結葉(ゆいは)が離婚届を役所の窓口に提出するのを見届けた偉央(いお)は、早々にその場を立ち去った。  今更「さよなら」を言うのも「今までありがとう」を言うのも変だと思ったし、何より愛しい結葉(ゆいは)が、(他の男)に付き添われてどうこうしている姿を見たくなかったから。  一度は幼馴染みのあの男から結葉(ゆいは)を略奪することに成功したはずだったのに、自分はどこで間違えてしまったのだろう?  偉央(いお)山波(やまなみ)(そう)を見つめる元・妻の信頼しきった眼差しを見て、完全に自分の敗北だと悟ったのだ。  もうどんなに足掻いても結葉(ゆいは)が自分の腕の中に戻ってくることはないだろう。  力尽くで閉じ込めたところで、彼女が反発して手の中からすり抜けていってしまう事は嫌と言うほど思い知った偉央(いお)だ。  そもそも偉央(いお)結葉(ゆいは)の身体だけが欲しいわけではなかったから。  不器用な愛し方しか出来なかったと認めるけれど、結葉(ゆいは)の身体だけを支配するので満足だったことはただの一度もなかったと偉央(いお)は断言できる。
/848ページ

最初のコメントを投稿しよう!

735人が本棚に入れています
本棚に追加