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いつだって偉央は結葉の身も心もギュッと閉じ込めて自分だけのものにしたいと熱望していた。
「結葉……」
車に乗ってハンドルを握りしめたまま結葉の名を呼んでみたけれど、その声はもう決して彼女に届くことはないと分かっていたし、ましてや返事が返ってくることだってない。
ギュッとハンドルを握る手に力を込めると、偉央は結葉たちが役所から出てくる前に車を出した。
***
離婚届の提出は、昼休みを利用して行った三人だ。
ただ書類を提出するだけなのだからそんなに時間が掛かることはないと分かってはいたけれど、出した後の自分の精神状態までは予測不可能だったから。
とりあえず今日は自分には手術も往診も何も入れずにおいた偉央だ。
『みしょう動物病院』の裏口からそっと中に入ると、第二手術室で佐藤獣医師が猫の避妊手術をしている最中のようだった。
今日の手術予定は確か三件。
いずれも不妊手術で、雌猫の避妊手術が一件、雄猫の去勢手術が一件、雌犬の避妊手術が一件だった。
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