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偉央は無言で薬指から指輪を抜き取った。
このところまともに食事が摂れていなかったからだろうか。
指輪は思いのほかすんなり抜けて。
そのことがまた、結葉との婚姻生活は偉央には〝不相応〟だったのだと言われているようで何だかしんどくなってしまう。
偉央はデスクの右端。一番上の引き出しを開けて小さな輪っかを二つ手に取った。
引き出しの中にあったそれは、いま偉央が外したのと対になったデザインの小さな指輪と、ダイヤがついた別デザインのもので。
結葉がつけていた結婚指輪と婚約指輪だ。
離婚届に判をついた際、結葉が緑がかった書類の上にそれらの指輪を載せて偉央に返してきたのだった。
「偉央さんにいただいたものなのでお返しします」
結葉は律儀にそう言って、華奢な二つのリングを偉央に戻してきたのだけれど。
返されたって、偉央だってそれらをどうしたらいいのか分からないのだ。
今自分が外したサイズの大分違う大きな輪と、三つ一緒に並べてみると何とも言えず切ない気持ちが押し寄せてくる。
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※公募用に書き下ろしたもの、こちらでも読めるようにしています。
タイトルは『やさしい嘘のその先に』
https://estar.jp/novels/25969063
です。
「不倫」をテーマに書き下ろした3万文字程度の短編(レーティングなし)です。
もしよろしければお暇つぶしにでも。
(2022/05/29)
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