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指輪を外したばかりの左手薬指は、まるでそれをつけるためみたいに指の根本が細くなっていて、肌も日焼けを免れて少しだけリング状に色白だった。
「結葉」
もう偉央と繋がるものを結葉は何一つ身につけていないんだと思うと、切なくてたまらなくなる。
そういえば、今までは別居していても一緒だったはずの苗字でさえも、結葉は離婚と同時に旧姓の「小林」に戻ってしまった。
これは民法が定めるところの「原則復氏」というものに則った措置らしいのだが、実のところ偉央にはそれさえも結構堪えている。
山波想の手前、下手に取り乱すのは嫌で、結葉にすら本心をさらけ出せないままに全てを受け入れる形になってしまった偉央だったけれど。
心の中は、一見穏やかに見える偉央の様子とは真逆。
冬の日本海のように荒れ狂っていた。
辛うじてプライドが偉央に妙な行動を取らせることだけは抑えていたけれど。
こんな千々に乱れた精神状態を、誰にも見られたくないと思った偉央だ。
***
そんな中、偉央は午後からの業務だけは何とか通常通りこなした。
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