38.二人暮らし

11/31
前へ
/848ページ
次へ
 一番多かったのはピアスだったが、それにしたって五セットもなくて――。  偉央(いお)は、結葉(ゆいは)には金銭的には何不自由ない暮らしをさせていたつもりだ。  だが(ふた)を開けてみれば、自分は彼女にこんなにも質素な暮らしを強いていたのだろうかと吐息が漏れた。  マンションを引き払う前に自分で荷物の整理に来るか?と問いかけた時、結葉(ゆいは)が「大丈夫です。そちらで処分して頂くか、廃棄するのに困るようでしたら山波(やまなみ)建設宛に送って頂けたら」とアッサリと言ったのを思い出す。  あれは、捨ててしまっても惜しくない量しか物を持っていなかったからだったんだろうなと、小ぢんまりまとまってしまった結葉(ゆいは)の持ち物を見て、偉央(いお)は小さく吐息を落とした。 ***  結葉(ゆいは)の荷物を山波(やまなみ)建設宛に送り出して、自分の荷物は使うものだけ手元に残した偉央(いお)は、大半の荷物を病院近くに適当に借りた賃貸マンションに押し込んだのだけれど。  どうしても片付けが後手後手に回ってしまった結果、部屋の中は段ボールが山積みのまま。  未だそこで生活を始めるには至っていない。
/848ページ

最初のコメントを投稿しよう!

735人が本棚に入れています
本棚に追加