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「美春。どうしたんだよ、こんなところで。――ひょっとして僕を待ち伏せでもしてたのか?」
あちらがその気なら乗ってやってもいいか、と思ってしまったのは、偉央の心が今現在隙間だらけで荒みまくりだったからかも知れない。
結葉と結婚してからは、妻以外の女性には全く関心がなくなって、美春はおろか、他のどんな女性とも不貞な関係になったことはなかった偉央だったけれど、もうどうでもいいかと思ってしまった。
考えてみれば、自分は随分と長いこと女性を抱いていない。
同居していた折には、妻の意思なんてお構いなしに結葉を無理矢理組み敷いたことは幾度もあったけれど、別居してからは当然そういうこともなかった。
婚姻時のように愛しい結葉が抱ければベストだが、もうそれは叶わない夢だ。
だったら昔みたいに適当な女性で男の欲を解消しても良いんじゃないかと投げやりなことを思った偉央だ。
先程からチラチラと偉央の左手薬指に視線を送ってくる美春に気付かないほど自分は鈍感には出来ていない。
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