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「……うん。だって偉央、この所ずっと病院泊まりだったでしょう? その……今日は離婚も成立したみたいだし……えっと、ご、ご飯でもと思っ……」
「――食事だけで済む話? ねぇ美春。正直に言ったらどう? 夕飯の後はキミの家に泊めてくれるって話なんだろ?」
美春は、わざわざ偉央の離婚が成立したこのタイミングで誘いをかけてきたのだ。
下心が皆無ということはないだろう。
今日はマンション整理のつもりで出てきたけれど、いつもならこの時間にコンビニに食料――主にエナジーゼリー系や飲み物――を買いに行っていた偉央だ。
きっと美春はそれを知っていて待ち伏せしていたに違いない。
いくら美春だって、ずっと建物内に引きこもっているかも知れない相手を外で長々と待っていることはないだろうから。
だとすれば、彼女はこの所の偉央の行動パターンを把握していて……。
その上で今までは行動に移さなかったのを、わざわざ自分が離婚したこのタイミングで動いたと考えるのが自然だと思えた。
相手にそのつもりがあるなら、今日くらいこの辛さを紛らわせるため、彼女の欲に乗っかっても罰は当たらないだろう。
「……来て……くれるの?」
美春が恐る恐る聞いてくるのが滑稽に思えた偉央はクスッと笑って助手席ドアを開けた。
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