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「そのつもりで声を掛けてきたくせに今更カマトトぶるなよ。ちょうど僕もそっちの方は随分ご無沙汰でぶっちゃけかなり溜まってるんだ。……なぁ美春。当然昔みたいに付き合ってくれるんだろう?」
――オーケーならそのまま車に乗り込めばいい。
――そうでないなら何か理由をつけて断れば? 僕は別にどちらでも構わない。
そういうつもりで、意地悪く当たりの良い営業スマイルを浮かべて美春を見つめたら、予想外にギュッと抱き付かれて。
不意打ちのような抱擁に、偉央は正直驚かされてしまった。
「お願い、偉央。私の前でぐらいそんなに無理して自分を取り繕わないで?」
美春のその言葉に、偉央の喉の奥、言葉にならない声がヒュッと喘鳴のような音を立てて溢れ出る。
「美春に……僕の何が分かるんだよ」
一拍おいて紡いだ言葉は、偉央自身驚くほど冷え冷えとしたものだった。
なのに美春は怯むどころかそんな偉央を真っ直ぐに見つめ返してきて言うのだ。
「最愛の奥さんと離婚した偉央の気持ちは私には分からない。でも……振り向いてくれない相手に好意を寄せ続ける辛さなら私にも理解出来る」
偉央を強い眼差しで見上げたまま、美春は偉央の服を掴んだ手指に力を込める。
「だって……私はずっと貴方に片想いをし続けてきたんだもの」
美春が自分のことを憎からず思っているのは、独身時代同僚として不埒な関係を築いている時から感じていた偉央だ。
だけど――。
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