38.二人暮らし

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「それでな。――急な話で(わりぃ)ーんだけど……俺ら、近いうちに(ここ)を出てアパートに戻ろうと思ってんだ」  (そう)と夜のドライブで『みしょう動物病院』の敷地内に新居らしきものが建設中なのを見て。  偉央(いお)を一人残して幸せになることを躊躇していた結葉(ゆいは)に、想が「結葉(おまえ)も幸せになっていいんだ」と太鼓判を押してくれた。  偉央への罪悪感が手枷(てかせ)足枷(あしかせ)になっていた結葉は、そこでやっとそれらから解放されて想への恋心を認めることが出来たのだ。  でも、いざ想の気持ちを受け入れてはみたものの、具体的にどうこうするわけでもなく日にちばかりが過ぎてしまったのは、まだ結葉の中に迷いがあったんだと思う。  想は結葉の気持ちをとても敏感に捉えてくれる人だったから、結葉のペースに合わせて(はや)る気持ちを諸々(もろもろ)抑えてくれているのも痛いほど分かった結葉だ。  そんな、結葉のどっち付かずの態度を一変させたのが、結葉が就職した先の会社――宮田木材を通して知った、ある事実だった。
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