38.二人暮らし

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***  (そう)結葉(ゆいは)の引越しの日。 「あーん、ゆいちゃん、寂しくなるわぁ〜」  ギュウッと手を握られて、純子に潤んだ瞳で見つめられた結葉は、思わず釣られて涙目になる。 「出て行くったって車ですぐの距離だろぉーが」  だが、そんな感傷的な気持ちを()ぎ払うように、想が結葉の手を純子から引き剥がしてしまった。 「もぉ、想の人でなしぃ!」  キッ!と息子を睨んだ純子が、再度結葉(ゆいは)の手を握り直して訴えてくる。 「ねぇゆいちゃん。やっぱり今からでも宮田木材(みやたさん)辞めて山波建設(うち)に転職しない?」  余りに子供じみて突飛な申し出だけど、本気にしか聞こえない真剣な眼差しで言い募る純子に、想が大きな溜め息を落とした。 「なぁお袋。ワガママも大概にしろよ?」  それが通用するのは旦那の公宣(きみのぶ)だけだと思い知ってくれ、と小さく毒づいた想は、今この場に母・純子の恋の奴隷(どれい)(公宣)が居なくてよかったと心の底から思っていたりする。  因みに公宣は今、妹の(せり)と一緒に買い出しに出ていて不在だ。  今日は引越し後、夕飯を一緒に食べようと言うことになっているから、その食材調達に駆り出されている形。  本当は純子が買い物組に加わるのが一番効率的なのに、彼女は(なたく)なに見送り側になりたいと主張して。  娘の芹と旦那に買い物リストを渡して、今現在結葉を困らせている真っ最中。
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