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想と結葉の引越しの日。
「あーん、ゆいちゃん、寂しくなるわぁ〜」
ギュウッと手を握られて、純子に潤んだ瞳で見つめられた結葉は、思わず釣られて涙目になる。
「出て行くったって車ですぐの距離だろぉーが」
だが、そんな感傷的な気持ちを薙ぎ払うように、想が結葉の手を純子から引き剥がしてしまった。
「もぉ、想の人でなしぃ!」
キッ!と息子を睨んだ純子が、再度結葉の手を握り直して訴えてくる。
「ねぇゆいちゃん。やっぱり今からでも宮田木材辞めて山波建設に転職しない?」
余りに子供じみて突飛な申し出だけど、本気にしか聞こえない真剣な眼差しで言い募る純子に、想が大きな溜め息を落とした。
「なぁお袋。ワガママも大概にしろよ?」
それが通用するのは旦那の公宣だけだと思い知ってくれ、と小さく毒づいた想は、今この場に母・純子の恋の奴隷(公宣)が居なくてよかったと心の底から思っていたりする。
因みに公宣は今、妹の芹と一緒に買い出しに出ていて不在だ。
今日は引越し後、夕飯を一緒に食べようと言うことになっているから、その食材調達に駆り出されている形。
本当は純子が買い物組に加わるのが一番効率的なのに、彼女は頑なに見送り側になりたいと主張して。
娘の芹と旦那に買い物リストを渡して、今現在結葉を困らせている真っ最中。
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