38.二人暮らし

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 結葉(ゆいは)の方はと言うと、あまりアルコールは得意ではなかったけれど、楽しい雰囲気に押されたのだろう。  気が付けば甘めのスパークリングワインのフルボトルを、女性陣三人で空にしてしまっていた。  公宣(きみのぶ)(そう)は、出だしこそビールだったけれど、いつの間にか日本酒談義に花が咲いていて。  会がお開きになる頃にはみんな楽しくほろ酔い気分。  結葉は想とともにホワホワとした気持ちでタクシーに乗り込んで、つい今し方アパートまで戻って来たところ。 *** 「ホントお腹いっぱぁーい」  想が玄関の鍵を開ける間、結葉が隣で無邪気な声を上げる。  お酒の効果だろうか。  幼い頃みたく警戒心の抜け落ちた結葉に、ドアノブに手を掛けながらチラリと視線を流したら、上気した頬がいつもに増して彼女の可愛さを引き立てているようで。  ちょっぴり目のやり場に困ってしまった想だ。  それを誤魔化したくて、まるでエスコートでもするかのように扉を開けて「お先にどうぞ」と視線だけで促したら、「想ちゃん、ありがと……」と軽く頭を下げて、結葉が中に入る。 「雪日(ゆきはる)ぅ〜、たいまぁ〜」  扉を抜けるなり、死角になっていて見えないはずの愛ハム雪日(ゆきはる)に律儀に帰宅した旨を伝える辺りが結葉らしくて。  想にはこの上なく好ましく思えてしまう。
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