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ずっと一人で暮らしていたこのアパートで、「ただいま」や「お帰りなさい」の挨拶が飛び交う日がくるだなんて思いもしなかったから。
これからは結葉と自分のどちらが先に帰宅していたにせよ、そういうのを言い合えるんだと思うと、何だか凄くいいなと嬉しくなってしまった想だ。
自分のすぐ前でお行儀よく脱いだ靴を揃えて端に寄せた結葉が、ふと立ち上がった瞬間。
彼女の長い黒髪からふわりと甘やかな香りが匂い立って。
「結葉……」
想は思わず後ろから結葉の小さな身体をギュッと抱きしめてしまっていた。
「想、ちゃっ……?」
想の指先が自分に触れたと同時、ビクッと身体を跳ねさせた結葉が、恥ずかしそうに身体を縮こまらせる。
その反応がとても初々しい感じがして、想の激情に更に薪を焚べてきた。
結葉の長い髪の毛をサラリと横に流して首筋に唇を寄せると、わざと熱い吐息を吹き掛けるみたいに「結葉」ともう一度切なく彼女の名前を呼びかけて。
その声に反応したみたいに結葉が小さく肩を震わせて耳まで真っ赤にするから、想はもっともっと彼女を照れさせたくなる。
「結葉、その反応、可愛すぎだろ」
ついでに言わなくても良いのに思わず本音をダダ漏らしてしまった。
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