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「結葉……」
ずっと長いこと、キスさえままならないままに形式だけの〝恋人〟と言う関係を貫いてきた想と結葉だ。
本当は名前を呼んだ先の、今一歩踏み込んだ関係に「このまま進んでもいいか?」と聞いてしまいたかった想だけれど、言おうとしたら喉の奥に言葉が引っ掛かってうまく声に出せなかった。
幼馴染みという期間が長すぎたのがいけないのか、はたまた結葉の離婚の傷がどこまで癒えているのかイマイチ推しはかれないのが敗因か。
結葉に触れようとするたび、まだ早いんじゃないかという躊躇いが先んじて、情けないことに想はどうしてもあとほんの少しの距離が詰められない。
結葉が結婚していた時、彼女の意思とは関係なく力でねじ伏せられ、蹂躙されて来たことは、はっきり言われなくても何となく分かった想だ。
もちろん、想だって健全な成人男性。
好きな女性に触れたいと言う気持ちは物凄く強い。
強いのだけど――。
その欲を一方的に結葉に押しつけることだけは、絶対にしたくなかった。
*
想が自分の名を呼んだきり、辛そうに眉根を寄せたのを見て、結葉はキュッと胸の奥が締め付けられるような切なさを覚えた。
想はいつだって結葉の気持ちを最優先してくれる。
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