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想は、見た目こそ三白眼で目つきが悪い。その上金髪でやんちゃそうに見えるから誤解されがちだけど、幼い頃から今日に至るまで、一度も結葉に対して高圧的な態度を取ったこともなければ、何か意見を押し付けてくるようなこともなかった。
常に結葉の意見を聞いてくれて、迷えば根気よく答えを出すまで待ってくれる。結葉を尊重してくれる。
結葉は、そんな想しか思い出せないのだ。
「想ちゃん、私……もう、大丈夫……だよ?」
結葉は想の腕の中でくるりと向きを変えると、すぐ傍に立つ想をじっと見上げた。
結葉が告げた「もう大丈夫」が何を指しているのか吟味するように、想が彼女を抱く腕を少し緩めて目の前の結葉を見つめ返してくる。
結葉は、そんな想の頬にゆっくりと手を伸ばした。
靴を脱ぎ終わっている結葉は、玄関ホールの床上にいて。
未だ靴を履いたまま土間に立っている想より十数センチばかり高い位置にいる。
無論、そのぐらいの段差では二六センチの身長差はゼロになりはしないのだけれど、いつもよりは気持ち想の顔に近い位置に立てている気がした結葉だ。
結葉は想の頬に片手を触れさせたまま、目一杯背伸びをする。
それでも厳しかったから、ほんの少し想の頬に添えた手で彼の顔を自分の方へ引き寄せて――。
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