734人が本棚に入れています
本棚に追加
「あー、あー」
ふくふくの小さな手が自分に向けて伸ばされるたび、世の中にこんな愛しいものが存在していたのかと我知らず笑みとともに吐息が漏れる。
「帆乃は本当にパパが大好きね」
ベビーベッドから娘を抱き上げたと同時、「何だかちょっぴり妬けちゃうなぁ」と、妻の美春が微笑んで。
偉央は娘を胸に抱いたまま、そんな彼女を見下ろして「バカだな」とつぶやいた。
偉央は、もとより美春のことは嫌いではない。だが、悲しいかな前妻の結葉ほど熱烈に愛せてはいないという自覚もある。
だからこそ、こうして子供を作れたんだけどね、と心の中で一人静かに嘆息した。
結葉とは――そう、愛してやまなかった前妻とは。夫婦二人きりの生活を邪魔されたくなくて、絶対に子供なんて要らないと思っていた偉央だ。
子供を作ったりしたら、結葉が自分一人の家族ではなくなってしまう。
下手したら、愛する結葉が〝偉央の妻〟であることよりも〝子供の母親〟であることを優先しかねないかも知れないではないか。
そう考えると、絶対に結葉との間には子供など必要ない、邪魔にしかならないと思ってしまった。
最初のコメントを投稿しよう!