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自分だってかなりのところ、打算で美春を二番目の妻として娶ったのだ。
ある意味お互い様。いや、寧ろ惰性だらけで似合いの夫婦じゃないか、と思っていたりもする。
だけど――。
そんな中、親を喜ばせる材料が出来たくらいにしか思っていなかったはずの我が子が、いざ生まれてみれば何ものにも変え難いほどに愛しく感じられる対象になってしまったと言うのは、偉央にとって全くの計算外だった。
(こんなに可愛いものだと最初から分かっていたら、結葉との間に子供を成してもよかったな……)
今更のようにそんなことを思って。
「帆乃は本当に美人だ」
黒く澄んだ瞳でじっと自分を見上げて意味の分からない音を発して手を伸ばしてくる娘に、偉央は思わず目を細める。
もちろん、美春に対して結葉との間に子供を作らなかったことを、今になって後悔しているだなんて、告げるつもりはない。
この愛らしい娘を自分に授けてくれたのは、偉央が〝嫌いじゃない〟程度にしか愛情を持てない相手――美春であることも確かな事実だから。
美春が望むままに愛していると嘯いて、無理のない程度。適度に夫としての役割を果たせたらそれでいいと思っている偉央だ。
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