40.それぞれの未来

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*  自分を真っ直ぐに見つめてくる美春(みはる)と、腕の中の小さな温もりを感じながら、偉央(いお)は一人思う。  きっと世間的に見れば、自分達は不義密通の末に前妻を追い出した最低の夫婦に見えるんだろうな、と。  別に院内で結葉(ゆいは)との結婚や離婚、美春との再婚のことを明言したわけではないけれど、スタッフの中にはそう感じている者も少なからずいるはずだ。  美春は偉央との結婚を機に『みしょう動物病院』の受付事務を退いて、専業主婦に収まったけれど、それでもこうして病院の近くに新居を構えている以上、何の噂も聞かないで過ごすのは不可能だろうなと思う。  偉央に面と向かって何かを言ってくるスタッフはいないけれど、早すぎる再婚に不満を持っているメンバーがいるのも承知の上だ。  院長権限で不穏(ふおん)分子の総入れ替えをして、院内の空気を一新することは不可能ではない。  けれど、そんな事をしようものなら、噂を受け入れて逃げを打った様で、それこそ美春と帆乃(ほの)に申し開きが出来ないではないか。
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