735人が本棚に入れています
本棚に追加
あんな風にお互いがギリギリのところまで追い詰められなければ離れられなかっただなんて、今考えたらおかしいと分かる。
偉央からされることに疑問を山ほど抱えていたくせに、何故あの頃の自分はそれを我慢することを選択していたんだろう?
「お前が……俺に助けを求めてきてくれて本当に良かった」
想が、愛おしそうに泡を洗い流したばかりの結葉の脚を持ち上げると、傷あとにそっと口付けて。
結葉はそれがくすぐったいのに何だかすごく幸せだった。
ほんの少し自分が勇気を出しただけで、全てがこんなにも変わるだなんて、ちょっと前までの結葉には思いもよらなかったから。
男女の営みが終わったあと、こんな風に穏やかな時間を過ごしたのは何年ぶりだろう。
偉央だって、少し強引で怖い面は見え隠れしていたけれど、それでも結婚してすぐの頃は、とても優しかったのを覚えている。
もしも結葉が偉央の意に沿わないことをしなかったなら……。
友人と外に遊びに出かけるのがそれほど好きじゃない性格だったなら……。
あるいは今でも偉央と夫婦でいられたのかもしれない。
それでも――。
最初のコメントを投稿しよう!