34.出て来ない結葉

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*** 「ごちそうさま」  偉央(いお)の声に、結葉(ゆいは)は「お粗末様でした」と答えて席を立って。 「片付けますね」  そう声を掛けてベッドの方へ向けていたサイドテーブルを、トレイを載せたままキャスターのロックを解除してベッドを避けるように動かした。 「偉央(いお)さん、今度こそ横になって身体を休めていてください。私、食器を洗ってきますので」  ベッド横の定位置にサイドテーブルを固定すると、自分が使っていた湯呑みをトレイに一緒に載せて、偉央(いお)の方を振り返る。 「――っ!」  それと同時、いきなり強く手を引かれて、結葉(ゆいは)偉央(いお)の腕の中に抱きしめられていた。  食事の間中、偉央(いお)が纏う穏やかな空気感に完全に油断していた結葉(ゆいは)は、突然のことに何が起こったのか理解出来なくて。  悲鳴すら上げられないまま偉央(いお)に捕まえられてしまう。 「――あ、あのっ、偉央(いお)、さっ」  偉央(いお)の腕の中に閉じ込められた事で、嫌と言うほど嗅ぎ慣れた偉央(いお)の香りが、結葉(ゆいは)の鼻腔に流れ込んできた。  〝偉央(いお)の香り〟と言っても、偉央(いお)は仕事柄香水などをつけるタイプではない。
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