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私は今、とあるショップの目の前に立っている。
リアルなショップに行くのは久しぶりだ。
この街の中には一部の公的機関以外、建物自体がほとんどない。
監視法が制定されているこの世界では、人間の行動は政府によって常に監視され、限りなく制限されている。
私達は、自宅で一人で過ごしている時以外は、たとえ家族間であろうと、"ガード"と呼ばれるヘルメットを被り、抗菌スーツを着て過ごさなければならない。
人との接触は法律で制限されており、人との接触距離や接触時間が一定の基準を超えると、腕に埋め込まれたICチップを通じて、個人のマイナンバーデバイスからアラートが鳴る。
アラートを無視すると法律違反となり、施設に収容され、罰金が課せられる。
そのため、生活に必要な行動のほとんどは、自宅にいながらにして行うことが出来るようになっている。
買い物も仕事も学校も全て自宅で行える。
よっぽどの理由がなければ、わざわざ外出して、人と接する機会をなるべく持たないようにするのが当たり前の世の中だ。
私は妻と息子の三人暮らしで、ごく普通の暮らしを送っている。
幸せな暮らしではあったが、実は私には小さい頃からの夢があった。
私の実家は貧乏で、子どもの頃は異世界転生装置を買うなんて、夢のまた夢の話だった。
そんな私に、父と母は、自分たちが幼い頃に聞いた、私の知らない世界の話をしてくれた。
異世界転生が出来ない私にとって、父や母の話が、まさに異世界転生だった。
それはとても楽しいものであったが、やはり本当の異世界転生を体験してみたい思いは強かった。
なので、大人になったら、いつか異世界転生装置を買い、息子に体験させてやるのが私の夢だった。
が、現在の私は実家ほど貧乏では無くなったが、決して裕福とは言えず、異世界転生装置が手に入る余裕は無かった。
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