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「いつもこんな事をしてるわけじゃないです。
雨が降っていても傘を持たない女性は無視します。
タクシーを利用するとか、同じ勤め先の人の傘に入れてもらうとか、そういう事ができるだろうから・・・」
男はタエの歩調に合わせてゆっくり歩を進めている。激しい雨脚が歩道ではね返り、歩幅の広い男の足元を濡らしている。
「私を傘に入れてくれたのはどうしてですか?自分が濡れてまで・・・」
「あなたは空を見ていた。
新宿あたりで雨空を見あげて何かを思う人はいない・・・。
雨が好きなのか、雨にいろんな想い出がある人なんだと思いました。
僕も雨を見てると、いろんな事を想いだします・・・。
すみません。よけいな事を話して・・・」
「そんなことありません。
どんなことを想いだすんですか?」
タエは何を聞けるか興味が湧いた。
「この時期だと、雨に濡れた里山の橅林。
雨で濡れた葉っぱにカタツムリがいた。
カタツムリは蝸牛と書く・・・。
カタツムリを捕まえてきて、飼っていた・・・。
それから、雨の日は縁側で雨だれや、雨で煙る里山を見てた。
見飽きなかった・・・。
ここには、ああした風景は無いし、そういう雨に煙る里山の事を話しても、里山を知らない人ばかりだ。家に縁側なんて無いからね・・・」
ああ、ここにも里山の近くで育った人がいた。里山を懐かしむ人に悪い人はいない・・・。タエはなんとなく、ほっとした。
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