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みらいのわたしへ
こんにちは! 元気? わたしは四年生の真由子だよ!
はたちのわたしは何をしていますか? 二十才はもうけっこんしているかな? 大学生かな?
わたしは、勉強は国語がとくいです。しゅみは絵をかくこととまんがをよむことだよ。「りぼん」を買ってます!
光GENJIが大好き、かーくんはかっこEよね!
かれしがいなかったら、はやくつくってけっこんしてね。
それではバイバイ! 本田真由子より
猫の絵がついたファンシーな便箋に、カラーペンのへたくそなまるっこい字が元気よく並んでいる。余白には自画像と思しきポニーテールの女の子がウィンクをしている絵が描かれている。
小さくたたんでガチャガチャのカプセルに入れられたその手紙を押入れの奥から見つけたのは、昨年亡くなった祖母の家を整理している最中のことだった。
「何これ、私こんなの書いたっけ」
思わず呟くと、その声を聞きつけて母が覗き込んできた。
「へえ、『みらいのわたしへ』だって。あんたが十歳の時に書いたのね」
「カプセルに『二十才になったら読んでね』って書いてあったけど、もう私四十歳だし」
「あら、じゃあ三十年もここに置いてあったのね~」
母は笑いながら片付け途中だった箪笥の方へ戻っていった。
この家には小学四年生の頃、半年ほどだけ住んでいたことがある。
体が弱かった母が、その年腎臓の手術をすることになったためだ。検査入院や手術前後の入院もあるし、退院後もしばらくは普通に動き回るというわけにもいかない。父は仕事が忙しく、帰りがどうしても遅くなってしまうので家事や子供の世話を任せるわけにもいかなかった。そんなわけで、母の体調が良くなるまで、母と私だけ祖母の家に世話になっていたのだ。
この手紙はその頃に遊びで書いたものだろう。
書いた内容は全く覚えていなかったが、当時はこういう未来の自分あての手紙や、お菓子の缶に小さなおもちゃやきれいな石などの宝物を入れたタイムカプセルを庭に埋めたりする遊びが流行っていたことはなんとなく覚えている。
それにしても、ここに住むのはもともと期間限定の予定だったのだから、二十歳の自分に手紙を書いたのならもとの家に帰るときに持って帰らないといけなかったのだ。当時の自分は書いたことに満足してそのままここに忘れて行ったのだろう。もちろん祖母の家にはそれから今までにも何度も来てはいるが、手紙を書いたこと自体すっかり忘れていて探してみようとも思わなかった。
自分の間抜けさにクスッと笑って手紙を元どおりたたもうとした時、便箋がもう一枚付いていたことに気づいた。二枚目にはこう書かれていた。
かみうめちゃんのことは、ぜったいにわすれたらダメ! はたちになったら出してあげるやくそくだからネ!
かみうめちゃん。
最初は何のことか全くわからなかったが、何度かその文を読み返すうちに、次第に記憶が蘇ってきた。
十歳のころ、私には「かみうめちゃん」という友達がいたのだ。
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