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困った……
俺の足取りは重かった。それは人生に思い悩んでいたからに他ならず、我が能力ではほとほと解決しようもない問題を背負い込み、頭を抱えていたのだった。
この悩みは俺の国の賢王でも、山奥で金銀財宝を守り貫くドラゴンでも、かつて闇を払った勇者や英雄でも、果ては全知全能の神様でも解決できないだろう。それほど、厄介な悩みを俺は抱えているのだ。
当然、ただの王都の民でしかない俺にそんな悩みを解決できるはずなく、足枷のついたような足取りで帰路を歩いていた。
石畳をトボトボ蹴りながら、夕闇に沈む空に俺はため息を放つ。
「もし、そこの人、あなた悩みを抱えていますね」
人の声がした。振り向くと、そこには占い師がいた。俺は見事、俺に悩みがあることを言い当てた占い師にすがるように近づいた。
占い師はかなり歳のいった爺さんだった。黒いローブを羽織って、水晶をかざしている。特筆すべきはその爺さんはデカかった。俺の身長から類推するに二メートルは下らなかった。
それ故に占い師には凄みがあった。この爺さんであれば、魔物が住み着く森でも平気で生きていそうな、そんな説得力があった。
俺は占い師に占いを依頼した。すると、占い師は目を細めて、
「お金をあまり持っていませんね」
その通りだ。財布には銅貨が三枚ばかりしかない。これでは、パンすら買えない。
「交友関係に行き詰まってますね」
その通りだ。金が入り用だったので色んな人から借りていたらみんな、俺から離れていった。俺だって返す気はあるんだ……いつになるかは定かではないが。
「職を失いましたね」
その通りだ。今日、今さっきクビになった。
全く意味がわからない。確かに、品出しの際は飯をよくこぼすし、皿洗いをすれば皿をよく割るし、遅刻はよくするが、それでも誠心誠意働いている。
「賭け事がお好きですね」
その通りだ。あんなにスリリングなものはないね、アレで一発当てるのが夢なんだ。
「お酒もお好きですね」
その通りだ。こんな腐った世の中、酒が無ければやってらんないね。俺がこんな体たらくになったのも、世の中がいけないに違いない。
「全くあなたは……ものすごい悩みを抱えてますね」
「そうなんだ。王でも、竜でも、英雄でも、神でも、この悩みは解決できないだろう」
「否、一つだけ、あなたの手でその悩みを解決する方法があります」
「なんだって! どんな方法だ、教えてくれ!」
「幻のチューリップです。手に入れれば、きっとあなたの人生は一変するでしょう。幻のチューリップは魔物の森にいることでしょう」
俺はなけなしの銅貨三枚を占い師に渡した。しかし、幻のチューリップか。今の貴族の間ではチューリップを集めるのが流行っているらしい、珍しいチューリップはそれだけ稀少価値がつく、売れば一攫千金だ。
俺は暗い家に帰ってきた。
ベッドに寝転び少し考える。幻のチューリップがあるのは、魔物の森。闇は数年前にはらわれたが、あの森には今も名前通り魔物がうじゃうじゃいる。
それに、森の奥深くには黄金の山があって、それを守る凶暴なドラゴンがいるとのうわさだ。そんなところは危険すぎる。
しかし、幻のチューリップがなければ今月の家賃も払えない。俺はベッドから跳ね起き、棚から一つの短剣を取り出す。
これは親父から貰ったものだ。曰く、俺が生まれる前に起こった闇との全面戦争の際、親父はこの剣でドラゴンと共に闇と渡り合ったらしい、親父はよくホラを吹くので真偽は不明だが。
どう見ても、古ぼけたただの短剣だが、これが俺に残された最後の財産だっと思うと笑えてくる。
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