「梅雨」×「夏日」

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「梅雨」×「夏日」

6月の梅雨の真っ只中、お金が無い僕は六畳一間の部屋でテレビを視ていた。 すると天井から雨漏りが始まった。 雨水が壁を伝わり、畳を湿らす。 とうとう押し入れの中に避難した。 携帯ラジオを聴きながら過ごす。 隣に誰か居た。 長い髪の若い女だ。 「誰だ?」 女と目が合った。 可愛い顔をしていたが二十歳ぐらいに見えた。 こんな押し入れに女が居るはずは無い。 「幽霊か?」 女は頷く。 不思議に怖くはなかった。 「しばらく、ここに居させてくださいな」 あ、構わないよ。 「その代わりに、話し相手になってくれないか」 はい 女は話し始めた。 「この場所は、昔に土石流で全滅したのです」 「知らなかった」 「私は、アメリカ留学を明日に控えて、夜は眠れなかったのですが、その夜に土石流に襲われて死にました」 「可哀想に」 俺には夢も金も無いけど、夢に向かう前に亡くなるなんて可哀想に。 その時に山の方から凄まじい大音響が聞こえて来た。 「まさか土石流?」 そうです、来ましたね。 俺は押し入れから出て外に出ようとした。 しかし 女が足に抱きついて来た。 「何をする、俺を殺す気か」 女は手を離さない。 玄関まで女を引き連り這った。 バリバリと凄い音がして押し入れが土石流で破壊された。 俺は必死で女を引き連り外に出た。 振り返るとアパートは破壊されていた。 ちっ 女は手を離して消えた。 翌日は晴れた暑い夏日になった。 俺は助かった。 これからは夢を持ち生きようと決めた。
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