「お墓参り」

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「お墓参り」

夏の朝、今日は俺の命日だ。 毎年、命日には彼女が来てくれる。 朝からソワソワして気持ちが落ち着かない。 死んでから5年が過ぎた、俺はまだ動けない。 隣の墓の無心さんは坊さんだから、いろいろ教えてくれた。 何でも死んでからすぐに動ける人と、数十年も動けない人が居るそうだ。 長年、修行を積んだ無心さんは動けないみたいだ。 昼前に彼女が花束を抱えてやって来た。 墓を洗い花を備えて線香に火を着けて手を合わせた。 「ごめんなさい、拓海さん、私結婚するの、もう来ません」 そう言うや彼女は駆け出した。 無心さんが慰めてくれた。 「来年は来るよ、気にするな」 「うん」 俺は、しかし落胆しなかった。 彼女は派手になり金髪になり、高価な指輪を嵌めていた。 俺の好きな、素朴な雰囲気は消えていた。 「拓海さん、あれが彼女?」 俺の墓の前の墓に先週入った朋美ちゃんが言った。 「うん、なんだか雰囲気変わってガッカリだよ」 それから朋美ちゃんと仲良く話して楽しい毎日が過ぎた。 3ヶ月が過ぎた日に。 朋美ちゃんが俺の墓の前に来た。 「歩けるの?」 「そうなのよ動けるの、じゃあ家族が気になるから行くね、さようなら」 「待ってくれ、朋美ちゃん」 しかし朋美は去った。 それから無心さんとも話さなくなった。 その日に女の幽霊がやって来た。 「あら、拓海くん、久しぶり」 中学の同級生の真理ちゃんだ。 「真理ちゃん動けるんだ」 真理ちゃんは、俺の手を繋ぎ引っ張り出してくれた。 「わたし、天界に行くから一緒に行きましょう」 「ありがとう真理ちゃん」 「あのね、私は拓海さんが好きだったの」 真理ちゃんの顔が赤くなった気がした。
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