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「招き猫」×「月見うどん」
「やはり、この店の月見うどんは最高に上手いな」
この月見うどんを20年は食べ続けている。
20席くらいの店で、いつも客で満席だ。
外で並ぶ客も10人はいる。
閉店ギリギリに来て食べさせてもらったから、客は僕しか居ない。
ふー
店主がため息をついた。
「さんちゃん、何かあったの?」
顔馴染みだから、ため口だ。
「俺も70才になってから、仕事の疲れが取れなくてね」
「栄養ドリンク飲めば?」
「そうだね」
店主が売上金をレジの横に置いてある招き猫の置物の前に置いた。
俺は用意していたナイフをバッグから取り出した。
「さんちゃん悪い、この金で故郷に帰らせてくれ」
「お前、バカな真似はよせ」
急に、さんちゃんはニヤニヤしだした。
「何がおかしい?」
「売上金を取れるなら、あげるからさ」
「と、取れるさ」
僕は売上金に手を伸ばした。
その時
シャー
招き猫の上に上げた前足が動き、素早い猫パンチを繰り出した。
僕は手を弾かれた。
「痛い、何だ、こいつは」
招き猫は怖い目で、僕を睨み付けた。
「実はな、亡くなった妻の霊が招き猫に入り店を守っているのさ」
「そんなバカな」
僕は怖くなり店を飛び出した。
しかし後ろから駆けてきた店主に追い付かれて捕まった。
「俺は毎朝走っているからさ、お前には負けない」
そして店に連れもどされた。
「すみませんでした、警察を呼んでください」
その時、招き猫が話し出した。
「健ちゃん、盗む前に何で相談してくれなかったの」
招き猫から亡くなった奥さんの声がした。
「ごめんなさい」
「あんた、小遣いから一万円出してあげて」
「俺が?」
「うん、助けてあげて」
「そうだな」
結局、一万円札を渡されて警察には通報されなかった。
僕は駅に向かい歩いたが、涙が止まらなかった。
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