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総務部総務課に属する「物品管理係」は、男性の斎藤係長と熊谷紗知という女子社員がひとり、そして新たにやって来たわたしという体制だった。
前任者は先週から産休に入ったとのことで、その補充にあてがわれたらしい。
「四十九院さんて、珍しいお名前ですよねえ!」
紗知が人懐っこそうな笑顔で言ってくる。
本社を案内してもらった後、そのまま二人でランチに出ているところだった。
「そうなの。しかも下の名前が信江だから、大御所演歌歌手みたいとか、仏像の名前みたいとか、あれこれ言われる」
初対面の人とは必ずこんなやり取りからスタートして、ちょっぴり笑いを取るのがお約束だ。
「実家がお寺とかなんですか?」
「それもよく聞かれる」
笑いながら、代々お世話になっているお寺のお坊さんに両親が頼んでつけてもらった名前であることと、この名前は玉の輿に乗れるらしいと、わざと声を潜めて語ってまた笑いを誘った。
本当は、あなたみたいに可愛らしい名前がよかったのに。
両親もその坊さんも、罪なことするわよね。
そんなことを思いながら、ツヤツヤな紗知のお肌に見入ってしまっていた。
熊谷紗知は、高卒で入社2年目。
つまり、まだ二十歳らしい。
年齢を聞いて、あちゃーっと思った。
学生さん? と聞かれて、否定も肯定もせずに曖昧な態度でそれっぽく振舞ったけれど、本物の二十歳と並ぶと5年の差は大きい。
あの人にからかわれていたんじゃないとしたら、やっぱり目がどうかしてたよね!?
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