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少し早めのランチから戻った後は、物品管理係の作業内容を説明してもらった。
物品管理と言っても、この本社で在庫を大量に抱えているわけではない。
それは別の場所に保管倉庫があって、そこから各ホテルへと配送されている。
ここでの仕事は、各ホテルから届く注文をまとめてメーカーに発注したり、倉庫の在庫や各ホテルの在庫の数字がおかしくないかをシステム上で管理することや、メールや電話で問い合わせがあったときの応対が主な業務となる。
横浜のホテルに勤務していたときも、配送センターから届く物品の受け取りや確認をしたことがあるから、大まかな流れはすでにわかっている。
「今度、九頭竜坂静弥専務の発案で客室のハブラシをプラスチック製のものから竹製のものへ変更することになったんです」
観光地のゴミ問題の解決策として「脱プラスチック」が叫ばれ始めている。
竹ハブラシも、リサイクルしやすく、燃やしても温室効果ガスが発生しにくい自然由来の原材料を使い、仮にビーチなどにポイ捨てされたとしてもゆっくり時間をかけて分解されるという代物らしい。
「待って、クズリュウザカシズヤ専務って? 石川専務は?」
くずりゅうリゾートは同族経営で、たたき上げの役員がちらほらいるものの経営陣の大半は九頭竜坂会長の親族が名を連ねている。
石川専務は、会長の義理の弟だったはずだ。
「石川専務は持病が悪化して治療に専念するとかで退任されたんです。その後釜に大学院で研究を続けていた会長の末っ子の静弥さんを招聘したとかなんとか? それで先月、就任の挨拶の時にさっそくこの竹製ハブラシに移行するっていうことを発表したんです。知りませんでした?」
知らなかった。
先月っていえば、わたしが謹慎していたときか、離島で働いていた間のことだったのだろう。
そういや、ミーティングルームにそんなお知らせが貼ってあったような気もするけど、気にも留めてなかった。
「静弥専務、すごくかっこいいんですよぉ。秘書課のお友達の話によると、学生からいきなり専務になったプレッシャーをものともせずに、実際にあちこちに視察に行ったりして精力的にお仕事されてる様子がまた、かっこよさを増し増しにしてるらしいですよ。でもその一方で、相当遊んでらっしゃるという噂も…」
コホンと斎藤係長の咳ばらいが聞こえた。
「業務に関係ないおしゃべりはほどほどにね」
紗知と一緒に「申し訳ありません」とペコリと頭を下げた。
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