9、出会えた幸福

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9、出会えた幸福

 セリナは一瞬唖然としたが、すぐにカインを睨みつける。  けれど、カインの悲観的な――苦しそうな表情を見て、眉をひそめた。 「辛いだろう」 「……何が」 「私は、姉を忘れずに生きていくことが懺悔だと思っていた」  セリナは口をつぐむ。  懺悔。その言葉の重みが胸にずしりとくる。 「そうね。私もそうだわ。大切な人たちを忘れずに生きていくことが、覚えて生き続けることが、懺悔だと思ってる」 「……なのに、すまない」 「なんのこと? 何を謝る必要があるのよ」 「お前が抱えているものを重さが私にはわからない。察することしかできない。辛いだろうに、苦しいだろうに。……けれど、思う」 「だから、何がよ」 「お前に会えてよかった。長い年月を生きていてくれて、私と出会ってくれてありがとう。私はお前に出会えて、救われた」  セリナは、表情を強張らせた。 ――生きていてくれて、私と出会ってくれてありがとう ――お前に出会えて、救われた  それらの言葉に、胸が締め付けられる。苦しいほどに。この痛みはなんだと考えて、すぐに理由を知る。  これらの言葉は、セリナが望んでいた言葉なのだ。  自分を認めてほしかった、こんな自分でも人を救えるのだと存在価値を示してほしかった。  セリナは、苦笑した。 「ありがとう。あんたは、本当にいい男ね」  カインは何かを堪えるように眉根を寄せ、そっとセリナの頬を撫でた。そのまま、吸い寄せられるように顔が近づいてくる。唇が触れ合う寸前に、セリナはカインの肩を押し留めた。  すぐ近くで、お互いを瞳に映し合う。 「私は、大量殺人犯よ。しかも、殺したみんなの血を得て、長生きしてるの。……罪人なのよ。怖いでしょう?」 「お前は背負おうとした。ローグ村の住人たちを殺した罪を背負うために、彼らを少しでも長く覚えておくために、生き続ける道を選んだ。自害せずに、都合よく罪の記憶を消さずに、ひたすら罪を背負って生きる道を選んだんだ。……そんなお前を、なぜ責められる」  セリナは、歯を食いしばった。 (だからっ、どうしてそうやって、欲しい言葉をくれるの)  カインを睨みつけるが、彼にひるんだ様子はない。  セリナの罪を知って尚、どうしてカインは気持ち悪がらないのか。殺した者の血を飲む姿を、見たはずだ。  その姿は、ただ狂った者に見えただろう。  人を殺め、血をすする。それは、不死の呪詛の一つであり、己自身を呪う禁呪の一つだ。  成功する可能性は低かった。それでも、セリナが生きている限り、セリナが生きて覚えている限り、ローグ村の人々は確かに『存在した』と言い張れる。  だから、セリナは生きる。 (医者なのに殺すことでしか救えない姿は、さぞ愚かに見えたでしょうに)  なのに、どうして軽蔑しないのか。 「お前は、私を責めない。姉を殺してしまって尚、生き続けている私を」 「……当たり前でしょ。あんたは悪くない」 「お前は、他者に優しいくせに己に厳しい。その生き方は辛いだろう。だが、お前はその生き方を変えようとは思っていない。罪人として、生き続ける道を選ぶ」 「何が、言いたいの」 「お前の傍にいたい。……お前が自分に厳しいのなら、私がお前を甘やかしてやる」  カインはセリナの頭を撫でる。  優しい手つきに、セリナは唇を噛んだ。 「……私、すっごいババアなの。性格も口も悪いし。嫌なやつなの。わかってる?」 「違う」 「違わないって」 「お前は可愛い」  不意打ちすぎて、セリナはこぼれんばかりに目を見張る。  カインはどこかそわそわした様子で頬を染め、視線を反らした。その露骨に「恥ずかしいことを言ってしまった」といった様子に、セリナのほうが恥ずかしくなってくる。 「全然可愛くないわ。可愛いっていうのは、セフィみたいな人のことを言うのよ」 「知り合いなのか。確か、バロック卿の侍女だろう」 「そう。すごく可愛い人なのよ。それに、王女様みたいに女性らしい人のほうが……男の人は、好きでしょう」 「お前以上に魅力的な女はいない」  告げてからややのち、またカインはそわそわとしながら頬を染める。  照れるなら言わなければいいのに。 「……すまない。言い慣れていないんだ。一応、口説いているつもりなんだが」  セリナは、思わず笑ってしまう。  本当に真面目な人だ。そして、どこか可愛い。  カインはセリナの頬に手を添えた。彼の濡れた瞳が愛しそうに細められ、セリナを見つめ――ふと、微笑んだ。 「やはり、お前には笑みが似合う。だが」 「……?」 「あまり可愛い顔をされると、我慢できなくなる」  カインの顔が再び降りてくる。唇が触れ合い、柔らかい感触に――と、なるはずだった。  けれど、セリナはガッとカインの肩を押しかえす。 「獣化しちゃうでしょ」 「……それでも、触れたい」 「だからっ、衣類が破けるでしょっ! 戻ったときのことを考えなさいよ!」  セリナが怒鳴ると、カインは目を見開いた。けれど、次の瞬間には、にまにまと彼らしくない緩んだ笑みを浮かべる。 「脱ぐ。脱いだら、触れてもいいんだな」  セリナは、口を開いて、すぐに閉じた。  咄嗟に告げてしまったことだが、つまりはそういう意味でもある。セリナはもう、カインを受け入れるつもりでいるのだ。  胸中で自嘲する。  こんなに真摯な想いをぶつけられて、拒絶などできるはずがない。拒否しようと思っていたのに、カインの幸せのためには拒絶する必要があるとわかっているのに。  セリナ自身、カインを求めてしまっている。  そんなことを考えている間に、カインは衣類を脱いでいた。下着一枚になり、その下着すら迷う素振りを見せずに脱ぎ捨てる。  すでに首を擡げている局部を見てしまい、セリナはそっと視線を反らした。  刹那、肩をカインの両手が置かれて、顔が近づいてくる。  もう拒まなかった。  熱くて少し硬い唇を押し当てられる。セリナはカインの背中に両手を回す。驚いた様子のカインだったが、すぐに獣化が始まったので表情はわからなくなる。  セリナはその間も、カインの背に回した手を離さなかった。  カインもセリナに覆いかぶさったまま、姿を変貌させていく。  ややのち、大柄な獣と化したカインはセリナの瞳を見つめ、長くざらざらとした舌で顔を舐め始めた。 「セリナ」 「なに」 「好きだ」  そう告げるなり首筋へ舌が移動して、大きな手でドレス越しに胸を揉まれる。  あ、と思った瞬間には遅かった。  ドレスが一瞬にして破かれて、破片がソファにひらりと落ちる。 (……まぁ、いいか)  このドレスは王城へ着くなり着替えたものなので、結構上等なものだけれど。今は、ドレスよりもカインのほうが大切だと、そう思う。  外気に触れて寒いと感じた胸や腹を、カインが舐め始める。空いた右手で胸をいじり、反対の手は全身を撫でていく。カインの手は大きく、片手でセリナの両胸を揉めるほどだが、カインは丁寧にセリナの片方の乳房を揉み、先端を指でつついた。  これまでの乱暴さはなく、優しく触れられることに違和感を覚える。けれど、徐々に熱を持ってくる身体に思考は溶かされて呼吸も荒くなっていく。  胸の突起を摘ままれ、ひゃっ、と声が漏れた。  腹を舐めていたカインが顔をあげて、胸の突起を舌でぐりぐりと押し始める。 「ちょっ、そこばっかりっ」 「どこが気持ちいい?」 「……なんか、今日はいつもより自我がある?」 「ああ。セリナを気持ちよくしてやりたい」  そう言った瞬間、両手でそれぞれの乳房の突起をいじられ、嬌声を漏らした。主張した突起をぐりぐりといじるから、痺れに似た快感が身体を駆け巡る。  秘部がじわりと濡れるのを感じて、無意識に足を擦り合わせた。その瞬間、カインの手が足の間に割って入り、ぐりぐりと秘部を撫でる。 「あっ」 「……濡れている」  さらに強い力で秘部を撫でられ、つつ、と膣へ爪の先が入る。切り裂かれたらどうしよう、とは思わなかった。  成人男性より遥かに太く大きな指が膣内に入ってきて、浅い場所にある膣壁を撫で始める。じらすような動きに、セリナは吐息を漏らした。 「ん、まっ、て」  その間も、カインは長い舌で胸の突起を舐め続け、ひたすら弄った。そして、顔を下腹部へ移動させる。  何をされるのか、これまでの経験でわかっていた。  カインのざらざらとした長い舌が、秘部を舐める。 「ひゃあっ」  咄嗟に声が漏れて、心地よさから愛液が溢れるのを感じた。恥ずかしいけれど、堪える間もなく舐められ続けて、やがて、膣に長い舌が押しこまれる。  爪で擦られた箇所よりも奥を柔らかい舌で刺激されて、もどかしさと心地よさに身体をくねらせるしかできない。 「あっ、んっ」  カインの手が再び胸の突起を、強く摘まんだ。  同時に膣に入っていた舌が引き抜かれ、女芽を舌先で強く押される。 「――っ」  突然与えられた刺激たちに、身体が強張った。全身に走った痺れは心地よさと同時に恐怖さえ覚えるほどで。 刺激が去ろうとしたころ、秘部から蜜が大量に溢れていることに気づいた。 (……なに、今の)  よくわからないけれど、頭の中が真っ白になった。  荒い呼吸でカインを見ると、セリナの足を広げ体躯を割り込ませている。反り返った赤黒い男根が、秘部に押し当てられた。  大きすぎるそれを受けいれるのは、辛い。  男女の情事はお互いに気持ちがいいと聞くけれど、セリナには苦痛でしかないだろう。痛くて苦しいとわかっている。  それでも受け入れたいと思う。  カインに気持ちよくなって貰いたい。求めてほしい。  ぐっ、と大きくて硬い男根が、膣に入ってくる。ゆっくりと、膣を広げながら。すでに物理的な質量に無理があったが、セリナは唇を噛んで悲鳴を堪えた。 「セリナ」  はっ、はっ、と獣らしい荒い呼吸をつきながら、カインが名を呼ぶ。  次の瞬間、男根が一気に沈められて、抉られる衝撃に脳裏で火花が散った。 「すまない。自制できない」  囁くと、カインの巨体が激しく動き始める。セリナの奥へ奥へと入り込み、身体を引いて、そしてまた奥へと押しこんでくる。  呼吸をするのも苦しい激痛を、ゆっくりと呼吸をすることで堪えた。 「セリナっ」  カインは動くたびにセリナを呼ぶ。吐息が、言葉の熱が、硬く興奮した男根が、セリナを求めてくる。  セリナはうっすらを目を開けて、カインを見つめた。  大きな口に、牙。その隙間からこぼれ落ちる唾液が、ぽたぽたとセリナの胸を濡らしている。うっとりとセリナを見つめる瞳を見て、カインに対する愛しさが溢れてきた。  セリナは、セリナの足に添えられたカインの手に、手を重ねる。 「好きよ」  笑みを浮かべたつもりだったけれど、痛みのせいで引きつったものになったかもしれない。  カインには伝わった――のだろう。  カインの身体が硬直して、次の瞬間、膣の奥に大量に白濁が吐き出される。ぎちぎちの膣を伝ってこぼれることもなく、ひたすら子宮内に吐き出される白濁の量は半端ない。 「セリナっ、あっ、セリっ、ナっ」  やがて射精が止まり、カインがセリナの身体を抱きしめる。ずるりと男根が抜けた刹那、膣から大量の白濁が溢れた。  カインは呼吸を整えることもなく、セリナの顔を舐めはじめる。 「もっと欲しい」 「……私も」  カインはまた興奮したようで、すぐに膣へ男根を挿入した。それからは、獣の本能のままに激しく愛されて、ひたすら愛を囁かれた。時折返事を返して、受け入れたいという意志を伝える。  正直、痛い。激痛だ。内臓がえぐれているのだから当然だろう。  けれど、この痛みは幸福だ。  セリナを愛してくれる人が、受け入れてくれる人が、いるなんて。何も望まず、ただ一人で生きていくだけの人生だと思っていた。  なのに、愛してくれる人が現れた。  情事で覚えるのは、死んでしまいそうなほどの痛み。だからこそ、その分感じる幸福も大きいのだ。  セリナもまた、何度も愛を囁いた。  そのたびにカインが嬉しそうにしてくれるから、セリナも嬉しい。  けれどやはり獣を受け入れるには身体が辛く、勿体なくも、途中で意識を飛ばしてしまった。  幸せな気持ちに、身を浸しながら。
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