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どうしても手に入らないのなら、ずっと
見守っていこうと決めていた
それは強固で、しかも密やかな決意で
誰にも知られないはずだった
☆
「偽善者……」
その小さな呟きが耳に届いた時、その言葉のあまりのもっともらしさに、俺は驚いて目を見張った。
そうだ。確かにその通りだ
そうか、俺は偽善者だったのか
と、俺は目をあげて声の主を探した。
怒りも、痛みも、何もなかった。
もっともだ。その通りだ
俺は偽善者だったのだ
と、ある種の感慨を覚えていただけだった。
声の主は簡単に見つかった。真っ直ぐにこちらを見ていたからだ。
「桜井?」
声をかけると、弾かれたように逃げ出そうとしたので、俺は怖がらせないよう、ことさら暢気な声で呼び止めた。
「ちょっと待てよー、桜井」
観念した、というように立ち止まった桜井が、ゆっくりと振り返る。
別に、怒鳴りつけたりなんかする気はないのに、伺うように警戒した目で。
—— 俺が偽善者なら、さしずめお前は正義の味方か?
俺はゆっくりと立ち上がり、ゆっくりと近づいてゆく。
怯えたように半身をそらす桜井に、両手のひらをむけて宥めながら、彼女の顔を覗き込んだ。
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