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ざっと、擦れるような音がして、狩野が勢いをつけて起き上がった。見渡せば他の部員はとっくに引き上げてしまっていて、コートには俺たち二人しか残っていなかった。 「田島、いい加減、帰ろうぜ」 「俺、今日待ち合わせなんだわ」 「誰と」 「だから、あれ」 さっき見えた辺りに適当に遠くを指差したけど、相川はもう走り去ってしまっていなかった。 「何でまた。別に何でもいいけどさぁ」  狩野がかすかに首を傾げる。 「あー。なんかな、今日告白してるはずなんだわ」 「はぁ?誰に」 「よう知らん。よう知らんけど、誰か、3年?」 「で、なんでお前が待ち合わせなわけ?」 「しらねぇよ。うまくいったなら喜びの声を、玉砕したなら涙の訴えを。話したいんだろ」 「……相川ってそういうタイプなの」 「結構ね」 「で、お前がそれを聞くの」 「だいたいな」 「お前、真性のばかだろう」  大きく溜息をついて、狩野が隣で頭を抱えた。 —— 項垂れたいのは俺だって…… そう思いながら、自分の代わりに誰かが滅入ってくれるのは、随分と救われるもんだなと思った。 俺はもう、ストレートに表に出すわけにはいかないから。 俯いた狩野の頭を、ぼんやりと懐かしい気持ちで見ていた。 「たじまー」 甲高くはないよく通る声。 目を上げるといつの間に戻ってきたのか、グラウンドの向こう側で、相川が大きく手を振っていた。 「呼んでるぞ」 「あぁ……たぶん。振られたんだろ。明るいから」 「何だそれ。よく分かるな。普通逆だろう?」
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