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4
ざっと、擦れるような音がして、狩野が勢いをつけて起き上がった。見渡せば他の部員はとっくに引き上げてしまっていて、コートには俺たち二人しか残っていなかった。
「田島、いい加減、帰ろうぜ」
「俺、今日待ち合わせなんだわ」
「誰と」
「だから、あれ」
さっき見えた辺りに適当に遠くを指差したけど、相川はもう走り去ってしまっていなかった。
「何でまた。別に何でもいいけどさぁ」
狩野がかすかに首を傾げる。
「あー。なんかな、今日告白してるはずなんだわ」
「はぁ?誰に」
「よう知らん。よう知らんけど、誰か、3年?」
「で、なんでお前が待ち合わせなわけ?」
「しらねぇよ。うまくいったなら喜びの声を、玉砕したなら涙の訴えを。話したいんだろ」
「……相川ってそういうタイプなの」
「結構ね」
「で、お前がそれを聞くの」
「だいたいな」
「お前、真性のばかだろう」
大きく溜息をついて、狩野が隣で頭を抱えた。
—— 項垂れたいのは俺だって……
そう思いながら、自分の代わりに誰かが滅入ってくれるのは、随分と救われるもんだなと思った。
俺はもう、ストレートに表に出すわけにはいかないから。
俯いた狩野の頭を、ぼんやりと懐かしい気持ちで見ていた。
「たじまー」
甲高くはないよく通る声。
目を上げるといつの間に戻ってきたのか、グラウンドの向こう側で、相川が大きく手を振っていた。
「呼んでるぞ」
「あぁ……たぶん。振られたんだろ。明るいから」
「何だそれ。よく分かるな。普通逆だろう?」
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