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「ずっと見てきたからなぁ。あいつあれで、案外惚れっぽいんだよ」
釈然としないといった狩野の横顔を横目に見ながら、俺は小さく右手を上げて相川に返した。
「もう上がるからー」
振られたはずの相川が無駄な虚勢を張って明るく叫んで、綺麗なフォームでまた走っていく。
落ち込んでいないか傷ついていないか心配な半面で、俺は、今回も相川の恋路がうまく行かなかった事に安堵する。
その相反する感情の狭間は暗くて狭くて不安定で、いっそどちらかに傾いてくれればいいのにと願うのに、俺は自分から迷い込むようにいつも、気付けば入り込んでしまう。
相川の色恋話はこれまでもさんざん聞いたけれど、たまにうまく言って付き合ってもそれも束の間で、今までうまく壊れてくれたから、俺はずっと、幼馴染のような保護者のような顔をしてそばにいられた。
相川は失恋したときは必ず寄ってくるので、時々、ほんの時々、彼女の不幸を心待ちにしていたりする。
—— 不健全だな……まったく
どうしてこんなところに嵌まり込んでしまったのか。どうしていつまでも繰り返しているのか。
考えるけれど分からずじまいで、でもきっと、俺は生涯、自分から手を放すことは出来ないだろう。
幸せになってもらいたい。だけど離れていかないで欲しい。
幸せにしてやりたい。だけど選んでもらえない。
ずーっとそうやって来た。
ずーっとこのままやっていけると思っていた。
だけど最近。何が変わったかなんて少しも分からないのに。
時々、相川のことが、直視できないほど眩しく見えて。だから。
そろそろ限界なんだ、ほんとに
「なぁ狩野。まじで相川と付き合ってくんない?」
さり気なく。懇願に近かった。
どこかの誰か知らない奴に連れ去られるくらいなら。
—— 狩野ならいいな……
偽善者な上に身勝手で、俺は本当にどうしようもないけれど。
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